久遠の絆

「半日で移動を完了しろってお達しだ!ちゃきちゃき働け!ちゃきちゃきなっ!」


熊の咆哮が船内に響き渡る。


移動を開始して2時間あまり。


それでも多くの戦艦を擁する第3師団の移動には、かなり手間取っているようだった。


しかしそこはそれ、優秀な人材が集まっている師団だけに着々と指定された地域へと近付いている。


「あと少し、あと少し、だ……」


ゲルシュ・グレンは司令官席に座ることなく、腕組みをしながら仁王立ちし、睨みつけるように目の前のスクリーンに眼を向けていた。


傍から見れば落ち着いているようだが、胸の内ではかなり焦っていた。


胸がざわめいて落ち着かない。


苛立ちと焦りと不安と。


そのようなものが綯い交ぜになって、彼の厚い胸を支配する。


「なんでこんなに胸が騒ぐんだ?」


これほどの胸騒ぎは初めてだった。


「やっぱ、あいつが絡んでるせいかな~」


やだやだ。


その面影を消し去るように頭を振ってみるが、どうしても振るいきれない。


「それだけ、あいつが怖いのか?」


俺が?


自嘲的な笑いを漏らし、ゲルシュ・グレンはかつて部下であった男のことを思う。


「シド・フォーン」


思わず名前を呼ぶと、オペレーターの一人がぎょっとしたように振り向いた。


中将の独り言はすでにこの管制室のBGMのようになっているが、それだけにその名詞は耳に残るものだったのだ。


「なんかやりそうな奴だとは思ってたけど、まさかここまでするとはなあ……」


顔色の悪くなるオペレーターのことなど目に入らないかのように、ゲルシュ・グレンは思いの丈を声に出していく。


彼を思い出す時まず浮かぶのが、あの冷たい漆黒の瞳だった。


すべてを冷ややかに見つめ、瞬時に自分に必要であるかそうでないかを判断する冷徹さを持ち、それでいて小動物など弱いものには愛情を注ぐ細やかなところも持つ。


「まあ、複雑な奴ではあったよな~」


それを理解できるものは彼に親しみ、そうでない者は怖れを抱いた存在だった。