久遠の絆

「儂のことをようご存知でしたな」


周囲からの注目を知っているだろうに、老人はごくごく普通の声で話している。


「余計な話はいい。依頼の件はどうなった?」


「ほほ……せっかちでいらっしゃる。まあ少し、老人の世間話に付き合ってやって下さいよ」


「必要ない」


取り付く島もない男の態度に、老人はニタリと笑った。


「余程お急ぎのようですな。可愛い恋人でも待っておられる?」


男はもう言葉を発することすらしなくなった。


フードの下からギロリと老人を睨んでいる。


その眼光の鋭さに、老人もさすがに顔を引き攣らせた。


「まあ、そう、お怒りにならず……」


すると老人はそう言いながら、懐から何やら取り出した。


それは数枚の紙片だった。


「お名前は……ギル・ルグナーでしたな?」


それを捲りながら、そんなことをぶつぶつ呟いている。


「ああ、ございました。これです、これです」


そして、その中の一枚をギル・ルグナーというフードの男に差し出した。


ギル・ルグナーはそれを取ろうと手を伸ばす。


だが老人が、渡した筈の紙片の端を押さえたのだ。


二人の視線がぶつかり、火花を散らした。


「何の真似だ?」


「そう怖い顔をなさいますな。二・三ご忠告申し上げたい事がありましてな」


「ほう、何だ?」


「これは飽くまで偽装の手形でございます。これで渡ったが最後、あなたも罪人。二度と日の当たる場所は望めない。それでもよろしいか?」


「そんなことは先刻承知だ」


「それはそれは。随分なお覚悟ですな」


「貴様、渡すのか、渡さないのか?」


「ほほ、本当にせっかちなお方だ」


老人の眼が異様な輝きを放った。


「それ程に南に渡りたいか、シド・フォーン?」