久遠の絆

そこはゴミ溜めのような地域だった。


その日暮らしの者がほとんどの、犯罪の巣窟のような場所。


治安は最悪だった。


帝国が隆盛であった頃は、これ程荒んではいなかったというのに。


今では福祉の手が届くことは全くない。


そこに一軒だけある酒場。


破れた壁も直されず、床も掃除されることはない。


出される酒も粗悪だったが、それでもこの地域に住む者には大切な憩いの場であった。


「おい、また来てるぜ」


「どこのどいつだ?ったく、目障りなんだよ」


最近ここに姿を見せ始めた一人の男。


周りの者からは、そう言って疎んじられる存在だった。


何しろ誰とも喋ろうとせず、目を合わすことすらしないのだ。


それならば、存在感がないのかと言うとそうではない。


すっぽりと外套のフードを被った姿には一分の隙もなく、辺りを払うような威厳すら帯びている。


ただ者ではないというのが、その場に居合わせた者の共通した感想だった。


だから、目障りでも手出ししない。


いや。


出来ないのだ。


今夜もその男は一人、不味い酒をちびりちびり呑んでいる。


しかし今夜は様子が違っていた。


そのフードの男の側に近寄る者がいたのだ。


それは腰の曲がった老人だった。


皺の多い顔の中でも、恐ろしく大きな鉤鼻が目を引く。


「止めときゃいいのに。あのじいさん」


「殺られるんじゃないか」


そんな声を余所に老人はフードの男と二言三言言葉を交わし、男の前の椅子に腰掛けたのだった。


皆が固唾を呑んで見守る中、二人の和やかな会話が始まった。