「どういうことだ?」
ぽつりと呟いたカイゼライトの背に、しわがれた声が掛けられた。
「奥様は狂われてしまったのです」
「何っ?!」
振り向くと、そこには頭が真っ白な老人が立っていた。
だが眼光の鋭さといい、姿勢の正しさといい、まだまだ壮年といった印象を受ける人物だった。
「お帰りなさいませ。カイゼライトさま」
「お前は……執事の?」
「はい。グレアムにございます」
「しかし私の知るグレアムならば、まだ50そこそこの筈」
「左様にございます。ですが、あの夜以来、すっかり白くなってしまいました」
「あの夜?」
「旦那さまが連行された夜にございます。旦那さまだけではありません。帝国のあらゆる貴族の当主、奥方、子女、孫の代に至るまで同盟軍は捕らえたのでございます」
グレアムはそう言って顔を曇らせた。
「……母上は?」
長椅子に突っ伏したままの母を見た。
この人はこうして、ここにいる。
「奥様は持病をお持ちということで見逃されたのです」
「持病?」
「はい。若年性健忘症、そう診断されている訳ではありませんが、過去の記憶や現在の出来事など、ふとした瞬間に噛み合わなくなってしまわれるのです。
先程も」
「……何故、そのようなことに?」
カイゼライトには、聡明であった母の記憶しかない。
「このようなことを申し上げれば、カイゼライトさまを責めているように聞こえるかも知れませんが」
グレアムは言いにくそうに口ごもった。
「構わない。申してみろ」
「はい。そのような症状が現れ始めましたのは、カイゼライトさまがお屋敷をお出になられた頃、あるいはその後かと」
ぽつりと呟いたカイゼライトの背に、しわがれた声が掛けられた。
「奥様は狂われてしまったのです」
「何っ?!」
振り向くと、そこには頭が真っ白な老人が立っていた。
だが眼光の鋭さといい、姿勢の正しさといい、まだまだ壮年といった印象を受ける人物だった。
「お帰りなさいませ。カイゼライトさま」
「お前は……執事の?」
「はい。グレアムにございます」
「しかし私の知るグレアムならば、まだ50そこそこの筈」
「左様にございます。ですが、あの夜以来、すっかり白くなってしまいました」
「あの夜?」
「旦那さまが連行された夜にございます。旦那さまだけではありません。帝国のあらゆる貴族の当主、奥方、子女、孫の代に至るまで同盟軍は捕らえたのでございます」
グレアムはそう言って顔を曇らせた。
「……母上は?」
長椅子に突っ伏したままの母を見た。
この人はこうして、ここにいる。
「奥様は持病をお持ちということで見逃されたのです」
「持病?」
「はい。若年性健忘症、そう診断されている訳ではありませんが、過去の記憶や現在の出来事など、ふとした瞬間に噛み合わなくなってしまわれるのです。
先程も」
「……何故、そのようなことに?」
カイゼライトには、聡明であった母の記憶しかない。
「このようなことを申し上げれば、カイゼライトさまを責めているように聞こえるかも知れませんが」
グレアムは言いにくそうに口ごもった。
「構わない。申してみろ」
「はい。そのような症状が現れ始めましたのは、カイゼライトさまがお屋敷をお出になられた頃、あるいはその後かと」


