そこはガルーダの旧都。


数ヶ月前に、首都としての役目を終えた街である。


これから繁栄を極めようとしていた街は、今は閑散として寂しい。


人の往来も、物資の流通も、今では最高時の半分以下。


皆が皆、北の大陸へ渡ってしまった。


その中心に立つ白亜の屋敷も、どこか煤けて見えている。


『漆黒の総帥』が情熱を掛けて作り上げた首都の姿は、もうない。






その白亜の屋敷の長く連なる塀の一画に、若い男女の姿があった。


何かを窺うようにして、微動だにしない。


顔をターバンのようなもので覆い、ゆったりとした服を纏っているから、一見すれば砂漠の民だ。


僅かに見える肌も、それらしく浅黒い。


男よりも少し小柄な女は、長い髪を一つにまとめ、ターバンの脇から前に垂らしている。


しばらくすると、ふたりはそろそろと歩き始めた。


塀伝いに、屋敷の裏手へと移動して行く。


主を失った屋敷は、警備も手薄なのか、誰かに見咎められることはなかく、彼らは木々のうっそうと茂る森まで辿り着いた。


手入れも行き届かないのか、枝が伸び放題の常緑樹。


その一本に取り付くと、まず男が、続いて女が、難なく屋敷の中へと入り込んだのだった。