久遠の絆

「あなたに付き纏う影だけでなく……。あなたが雪山で経験されたことを私なりに考えてみたのですがね。
シャルティが見た繭。そこにいた黒い男。あなたはそのままの光景を夢の中で見ていました。
それにクレバスを下りた先は、異空間と繋がっていたようですね。
その異空間とはつまり、あなたの心象世界。蝕まれていくあなたの心を、そのまま映した空間だった。
私はそう解釈したのですが……」


「わたしには、分かりませんっ。何もかも、あいつのせいなんです!わたしがこんなに苦しんでるのは、全部あいつのせいなんだっ!」


蘭は強い口調で、そう言い放った。


けれどイーファンは、蘭の苛立ちを受け止めるように、穏やかに話し続けた。


「あなたは常に、ご自分の心を救いたいと願っている。と同時に、死を望み、この世からの逃避をも模索している。このふたつは、相反するようでいて、実はとても近しい心情なのですよ。
いずれも現状から脱したいともがいている、あなたの思いから生まれたものなのですから」


「……」


「あなたは黒い男をご自分の父親だと思っているようだが、実はそうではない。黒い男は、あなたの心の闇に他ならないのです。あなたの心が、あなたに気付いて欲しくて発しているサイン。
もっと良くご自分の心を見つめてごらんなさい。
答えは、そこの壁などにはありませんよ」


そう言って、シャルティは微笑んだ。


蘭は目から鱗が落ちてくる思いだった。


ずっと父親がこの世界に付いて来ているのだと思っていた。


けれどイーファンは、それは心の闇が作り出したものだと言うのだ。


だとすれば、自分は今まで、自分が生み出した幻影を、自分で恐れていたことになる。


蘭はまた壁を見つめた。


何もない壁を。