パリン
硝子が割れる音を聞いた気がした。
その音と共に首に巻き付いたものが弾け飛んだ。
そして体を締め付けていたものも、潮が引くように消えて行った。
片膝を着いて咳込んだのち、呼吸が回復する。
「……っ、こんな所で死ねないんだ、俺は」
まだ何もしていない。目指す場所はずっと先。
道半ばにして終えることは出来ないのだ。
若者たちが自分に希望を託しているのだから。
強い意志で立ち上がると、またパリンと硝子の割れる音がした。
(なんで、こんな所に硝子が?)
見渡せば、知らぬ間に辺りがぼんやりと見えるようになっていた。
(どこかに光源が?)
そう思って歩いてみたが、それらしき物は見当たらなかった。
硝子の割れる音はまだしている。
しかもそれは、シャルティが数歩進む毎に聞こえるようでもあった。
光源はないのに明るくなり、硝子はないのに割れる音がする。
(妙な所に来たもんだ)
広いのか狭いのかすら分からない空間。
そこを散々歩き回ったものの、光源も硝子のカケラひとつ見つけられなかったシャルティは、地面に座り込んでしまった。
彼が歩き始めるよりもずっと明るくなっていて、硝子の割れる音はもうしない。
(本当に俺の動きに合わせてたみたいだな)
イーファンの言うように、ここは本当に禍禍しい空気を発しているのだろうか。
シャルティにはさほど悪い場所には思えなかった。
(初めは殺されかけたけど。むしろ居心地はいいじゃないか。すごく静かだ……)
こんな静寂の中に身を置いたのは初めてだった。
(たまにはこういうのも悪くないな……)


