シャルティにしては随分説明を省いたものだ、とロムは思った。
あそことはどこなのか。
戸惑うロムに、険しくなっていた顔をようやく綻ばせて見せるとシャルティは、ぶ厚い上着に包まれた右手を目の高さまで上げた。
「あの斜面に見えるクレバス」
指の先を追ったロムの目は、雪原から遥か遠く、いまだ小さく見える頂上へと続く尾根を捕らえていた。
そして、その尾根から一気に下る崖。そこに張り付く氷河。
その氷河にぱっくりと口を開けた巨大なクレバスへと視線を移していったのだった。
「あんなクレバス、誰も近寄りませんよ」
登山者にとってクレバスはもっとも恐ろしいものの一つだ。
雪に覆われたクレバスはまったくその存在を消してしまう。
気付かぬうちにそこに足を乗せ、滑り落ちて命を落とした者は少なくない。
氷河に隠れた底無しの落とし穴。
それがクレバスだった。
シャルティの指差したクレバスは存在を主張しているだけ、まだマシだ。
それがどうしたというのか。
いぶかしむロムに、サングラスをかけ直しながらシャルティは言った。
「イーファンがあそこへ向かえ、と」
「え、イーファンさんが?」
「ああ」
指導者ふたりが、時に思念のみで会話することがあるのは知っていた。
自分はそれを目の当たりにしたということか。
ロムは軽い高揚感を覚えていた。
「じゃ、あそこに少女がいるんですね?!」
「それはまだ分からない」
部下の興奮を抑えるように、シャルティはあくまで冷静だった。
「イーファンも、怪しいというだけで確信がある訳ではないんだ。苦労して行っても別の事象が待っていて、徒労に終わるかもしれない」
「……」
「それでも俺は行くが……命の危険を伴うことだ。お前はここに残って、先遣隊との連絡を取っていてほしい」
あそことはどこなのか。
戸惑うロムに、険しくなっていた顔をようやく綻ばせて見せるとシャルティは、ぶ厚い上着に包まれた右手を目の高さまで上げた。
「あの斜面に見えるクレバス」
指の先を追ったロムの目は、雪原から遥か遠く、いまだ小さく見える頂上へと続く尾根を捕らえていた。
そして、その尾根から一気に下る崖。そこに張り付く氷河。
その氷河にぱっくりと口を開けた巨大なクレバスへと視線を移していったのだった。
「あんなクレバス、誰も近寄りませんよ」
登山者にとってクレバスはもっとも恐ろしいものの一つだ。
雪に覆われたクレバスはまったくその存在を消してしまう。
気付かぬうちにそこに足を乗せ、滑り落ちて命を落とした者は少なくない。
氷河に隠れた底無しの落とし穴。
それがクレバスだった。
シャルティの指差したクレバスは存在を主張しているだけ、まだマシだ。
それがどうしたというのか。
いぶかしむロムに、サングラスをかけ直しながらシャルティは言った。
「イーファンがあそこへ向かえ、と」
「え、イーファンさんが?」
「ああ」
指導者ふたりが、時に思念のみで会話することがあるのは知っていた。
自分はそれを目の当たりにしたということか。
ロムは軽い高揚感を覚えていた。
「じゃ、あそこに少女がいるんですね?!」
「それはまだ分からない」
部下の興奮を抑えるように、シャルティはあくまで冷静だった。
「イーファンも、怪しいというだけで確信がある訳ではないんだ。苦労して行っても別の事象が待っていて、徒労に終わるかもしれない」
「……」
「それでも俺は行くが……命の危険を伴うことだ。お前はここに残って、先遣隊との連絡を取っていてほしい」


