久遠の絆

「総帥。お迎えに上がりました」


ヘラルドは戸口まで来ると、軍靴を鳴らして敬礼した。


隻眼ゆえか、相変わらず彼の表情から感情を読み取ることは難しい。


彼は蘭など存在していないかのように、シドだけを見ている。


「遅いぞ、ヘラルド」


「申し訳ございません。ご不便はありませんでしたか?」


「こんな小屋、不便だらけだ。その上使用人が使えないガキときている」


「それはさぞお困りでしたでしょう。さあ、本館に帰りましょう」


「ああ、そうだな」


そう言うと、シドはさっさと扉へと向かおうとする。


蘭は完全に蚊帳の外だった。


「ちょ、ちょっと待ってよ!百歩譲って使用人でもいいけど、このまま放っといて行かないで欲しいんだけど」


人格が変わる前の本当のシドとの落差が激しいことに、蘭は思い切り戸惑っている。


せめてもう少し親密にしてくれてもいい。


それなのにシドは蘭を使用人だと思い込み、ここに置いてきぼりにしようとまでしている。


(あんまり変わり過ぎだよ。酷いよ)


虚ろな心をシドに癒してもらっただけに耐えられなかった。


「そんなに俺といたいのか?」


からかうように言って、シドは立ちすくむ蘭の所へ戻って来た。


そして彼女の顎をぐいっと持ち上げた。


あまりに強引な行為に、蘭は逃れようと頭を振った。


しかしシドは容赦なく顎を掴む指に力を入れる。


「い、痛いよ。シド」


「だ、か、ら、シド“さま“。ほんとに物覚えの悪いガキだな。お前は」


痛みと屈辱で、目尻に涙が滲む。


「なんなら一から十まで体を使って教えてやってもいいんだぜ」


「な、何言って……」


本当のシドはそんなこと絶対言わない。


シドの下卑た表情を見るのが嫌で顔をそらすと、ちょうどヘラルドが視界に入った。


(え?)

と蘭が戸惑うほどに、彼はこちらを見ながらニヤニヤと笑っていた。


勝ち誇ったような、そんないやらしい笑い方だった。