久遠の絆

シドは無言で蘭を見返している。


彼女の言葉を再度自分の中で噛みしめているようだった。


そして。


「お前の言葉はいちいち胸に響くな」

と呟いた。


「そ、そう?」


「ああ……だが俺にとって過去の帝国での出来事は、なかなか消化できるものじゃないんだ。兄貴と話をしてみたいという気持ちがない訳ではない。けれどもそう簡単には行かないのが現状だ」


「ゆっくりでいいんだよ」


シドはふっと笑った。


「そうだな」


彼がカイゼライトのことを、意識して『兄貴』と呼んでいるのかは蘭には分からない。


だが彼が兄のことをそう呼んでいる限りは、ふたりはまだ大丈夫なんじゃないかと思えた。


(いつかはきっと、仲直りできるよね)


アップルパイの最後のひと切れを口に放り込んだ蘭は、心の中でそう思うのだった。


「兄貴は悪くない」


「……うん」


「すべてすれ違いから生じたものだからな」


「うん」


「あの時の俺は若すぎたんだ」


「……もしかして、帝国を出たこと、後悔してる?」


「それはない。いつも言っているように、それとこれとは別問題だ」


「そ、そっか……」


もしシドが帝国に帰ろうなんて思ってくれたら、カイルはどれほど喜ぶだろう。


そう考えてしまう自分がいて、蘭の胸はまたきしきし痛む。


(この期に及んでも、まだカイルのことが頭から離れないんだなあ、わたしって)


胸が鈍く痛むのをシドに悟れらまいと、蘭は必死で笑顔を保っていた。


「カイゼライトさんは待っててくれるよ。シドが本当にその気になるまで」


あの寛容な人のことだ。


きっと待っていてくれる。


蘭はそう信じていた。