久遠の絆

だから考えないようにしていたのに。


距離を取ろうとすればするほど、彼の面影はより深く心の中に入り込んできてしまう。


もう嫌なのに。


これ以上傷口から血を流すのは嫌なのに。


どうして彼の面影は消え去ってはくれないのか。


(カイルはもう、わたしの傍にはいてくれないんだよ)


そう自分の心に言い聞かせても、カイルの薄緑色の瞳と穏やかな微笑みは、今も蘭にとって一番の癒しだった。


(ああ、でも、それすらも、もう他の人のものなんだ……)


やはり不安定になっているのだろう。


気分の浮き沈みが激しかった。


むしろ沈み方のほうが激しかった。


「はあ――」


盛大な溜め息をついたとき、目の前にコトリとスープ皿が置かれた。


「ちょっとずつでいいから食べろよ」


顔を上げると、シドの漆黒の瞳とぶつかった。


「うん……」


曖昧な返事をする蘭に、その漆黒が心配そうに揺らいだ。


「ちょっとずつでいいんだから、な」


もう一度念を押すように言って、シドは向かいの席に座った。


「シドって、優しいね」


ぽつりと言った言葉に、シドはピザに伸ばそうとした手をそのままに固まってしまった。


「俺が?優しい?」


コクリと頷く蘭をシドは複雑な表情で見返した。


「……優しいわけじゃないさ」


「ううん、優しいよ!こんなわたしに、ここまでしてくれてありがとう」


「それは、お前だからだ」


「わたしだから?」


「そう」


「なんで?」


「なんでって……いいから食べろよ」


シドは照れ臭そうに投げやりに言うと、ピザにかぶりついた。


そのまま黙々とピザを平らげていくシド。


そんな彼を蘭は感謝のまなざしで見つめていた。


もし今彼がいなければ。


自分はこんなに浮上することはできなかっただろう。


彼がいてくれて良かったと、今ほど思ったことはなかった。