久遠の絆

停戦のための協議であったはずなのに、その場の空気は最悪のものとなっていった。


さすがの蘭も険悪な雰囲気になってきたということくらいは分かる。


(え、え、どうしたんだろう。何話してるのか聞こえないけど、もっと穏便にできないの?)


離れた場所でおろおろしている蘭を知る由もなく、シドの態度はさらに帝国側を馬鹿にしたものになっていく。


「元帥。あんたが選ぶ道はふたつしかないんだ。首都への総攻撃を受け入れるか、こちらの条件を飲んで停戦協定を結ぶか。それだけだ。こちらに補償を求めようなんて、少し虫がよすぎるだろう?」


カイルは憤りを抑えるように口許をきゅっと結んだ。


冷静な彼がそのような表情を見せることはあまりない。


それは遠目ではあったけど蘭にもはっきりと見ることができて、彼女は驚いて立ち上がり、思わずカイルの方に駆け寄ろうとしてしまった。


すかさず背後から腕が伸びてきて、ぐいッと力任せに椅子に押さえつけられてしまった。


それは控えている護衛だった。


彼らは彼女を護衛するというよりも、彼女が余計な事をしないように見張るためにそこにそこにいるのかもしれない。


カイルはまだ口許を引き結んだまま、思案するように黙り込んでいる。


何が最善の方法か、模索しているようだった。


(カイル……)


自分は滅多に目にすることのない政治家としての彼を目の当たりにして、蘭は彼をとても遠くに感じていた。


自分が知るカイルは、いつも微笑みを湛えて、優雅な物腰でお茶をする。


そんな姿しか知らない。


こんなギリギリの駆け引きが行われている場面に身を置く彼を見たのは初めてだ。


護衛などいなくても。


自分はとても場違いな感じで、この話し合いの輪の中に入ろうなどとは思わない。


こうして見守るしかできなかった。


シドの表情は蘭からは見えないが、彼の立場の方が数段有利だということは、話が聞こえなくても雰囲気で伝わってきた。


ガルーダの総帥としての今のシドにも、到底近付くことはできない。