久遠の絆

タイミングが良ければ、夜に部屋を抜け出し東屋に行けるかもしれない。


あの人に会えるかもしれないと思うと、自然に顔がにやけてくる。


あの人のヴァイオリンの音色を聞いたら、また元気をもらえそうな気がする。


壁に掛けられた時計を見た。



(時間だ)



ナイルターシャがよく寝ているのを確認して、蘭は小屋をあとにした。


トンネルを出、もうひとつの小屋を通り抜けると、本館へと続く細い小道がある。


そこををゆっくりとした足取りで歩いていくと、小道の入り口辺りに人影があった。


薄暗い中浮かび上がるシルエットは、華奢で小柄な、明らかに女性のものだった。


「リリカ」


蘭は小声で呼びかけていた。


「ご無沙汰しております。ランさま」


やはりこの人のランに対する態度は事務的で、なんとなくきうきしていた気分も一瞬に
して萎んでいってしまった。


(そうよね。ここはダンドラークでなくって、ガルーダだった)


誰も真に心を開いてくれるものはない場所だった。


「さあ、夕餉の支度が整っております。お部屋に戻りましょう」


そう促して、主人を先導するように先に立って歩き出したリリカの背中に、


「あの、わたしが何をしてたかとか、知ってるの?」

と尋ねると、彼女は振り向きもせず、


「いいえ、ランさまがご不在の間何をされていたとか、そういうことはわたくしが知らなくても良いことですから。わたくしの役目はランさまが居られる時に精一杯お世話をすること。それだけです。余計なことを知る必要はございません」

ときっぱり言い切った。


「あ、そう、そうだよね……」


蘭は内心溜息をついていた。


少しは久しぶり会えたことを喜んだりし合えるのかと思っていたのに。


やはり、リリカに親しみを感じても無駄だったのか。


(わたしはいつも同じ間違いをして、それで落ち込んでしまうんだから……)