久遠の絆

「自分をそんなに卑下してはいけません」


ナイルターシャの静かな声が、戒めるように言った。


どうやらこの人も、相手が何を考えているのか分かるらしい。


自分の考えが筒抜けだと知って、蘭は少し腹が立った。


「どういうことですか?」 


「ふふふ、まあそう怒らないで。わたくしも読まないように努めているのだけど……ごめんなさいね」


シェイルナータならきっと、他人の考えが読めることについて、ひとしきり自慢話に花
を咲かせたことだろう。


ナイルターシャは読んでしまうことを謝った。


やはり姉妹で随分性格は違うようだ。


顔色が良くなったといっても先程まで死線を彷徨っていただけに、ナイルターシャは少し話をしただけで疲れたのか溜息をついた。


「少し休んでください、ナイルターシャさま」


すると老女は微笑むと、

「わたくしのことはばばさま、と呼んでね」

と言い残し目を閉じた。


今度は苦しそうではない、規則正しく繰り返される呼吸だった。


眠る老女の顔を見つめながら、蘭はこの老女もまた、けっして華やかで順風満帆な人生
を送ってきたのではないのだろうと思う。


その顔に刻まれた皺のひとつひとつが、彼女の舐めた辛苦と重なるのだろう。


この世界を救うために。


人生を捧げてきた彼女。


それが彼女の生まれてきた意味だと言うなら、神はなんと重たいものを彼女に背負わせ
たのか。


あの村でただ「ばばさま」と呼ばれた日々だけが、彼女が本当に人間らしい生活を送る
ことの出来たひと時だったのかもしれない。


そこまで思うと、蘭は涙を一筋流した。


それをグイッと手の甲で拭うと、

「最近泣きっぱなしだ。だめだめ。感傷的過ぎるよ」


この老女を一刻も早く村人達が敬愛する「ばばさま」に戻してあげるためにも、自分が為すべきことを知らなければならない。


ここで感傷に耽っている暇はないのだ。