久遠の絆

(あ……)


思わず、駆け寄って彼を抱きしめたい衝動に駆られた。


母が泣く子を抱きしめるように、彼をありったけの愛情で包んであげたい。
そう思ってしまった。


けれど。


ヘラルドに促され、結局それは彼女の思いだけで終わってしまった。


シドは今も、あの窓辺で、孤独に立ち尽くしているかもしれない。


そう思うと胸が痛んだ。


前を歩く男に何を尋ねても、欲しい返事はもらえない。


それを分かっているのに、蘭は

「シドさん、ひとりにしない方がいいんじゃないですか?」

と訊いてしまっていた。


「……」


当然ヘラルドの返事はない。


でもこのときの蘭は諦めなかった。


「シドさん、わたしにいてほしいって言ってくれたんです。だからやっぱり一緒にいてあげたほうがいいんじゃないかと思って……。
人ってなんだか寂しいなって時には、誰でもいいから傍にいて欲しいもんなんですよ。だから」


言いかけたときだった。


バシッと左の頬に痛みが走り、蘭の体はそのまま地面に転がったのだ。


「っつ……」


じわりと口の中に鉄のような味が広がった。


「お前に何が分かると言うのだ?」


静かだが怒気を含んだ声。


その時になってようやく、蘭はヘラルドに平手打ちを喰わされたということに気がついた。


痛みが頬一杯に広がり、彼女の体はがたがたと震え始めた。


虐待を受けていた頃のことが甦る。


彼女は頭を抱え、土の上に伏せてしまった。


「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」


か細い声でそう言い続ける蘭を、ヘラルドはやはり冷たい目で見下ろしていた。