「ここのこと、ここで見たことはいっさい他言無用だ」
ヘラルドは視線をシドに向けたまま冷ややかに言った。
「ヘラルド?」
その冷たさに反応したように俯けていた顔を上げたシドの瞳には、いつも見ている鋭さが僅かながら戻ってきているように見えた。
「なんでしょう、シドさま?」
「俺は、彼女にいて欲しい」
ヘラルドの眉がぴくりと動いた。
続いて彼がシドに向けた返事は、失笑だった。
「彼女を送って、またこちらに参ります。それまでお休みください」
今の主導権は完全にヘラルドにあった。
いつもとまったく違う二人の関係。
それはシドが常の状態ではないからだ。
(シドさん、ほんとにどうしちゃったんだろう)
関係ないのに心配になってしまうのは、彼の不安定さの中に垣間見える心の傷のようなものに気付いたからか。
彼も自分と同じように、心の傷から血を流し続けている?
それは思いもかけない、彼の裏の姿だった。
(ただ強い人だと思っていたのに……)
シドが『隠れ家』と言った小屋をヘラルドに追い出されるようにしてあとにし、今はそのヘラルドの後ろをついて歩きながら、ナイルターシャの待つ部屋へと向かっていた。
相変わらず、前を歩く男は何も教えてはくれない。
彼が蘭に掛ける言葉は命令だけだ。
(シドさんに対してもそうなんだろうか)
一番近しい人が労わりの言葉すら掛けてくれないのだとすれば、シド・フォーンという人はとてもかわいそうな人だと思う。
蘭は小屋を出る時、ヘラルドに気付かれないようにそっと後ろを振り返った。
その時。
明るい朝の光が差し込む窓辺に立った、今にも消え入りそうな儚げな様子のシドを見てしまった。
ヘラルドは視線をシドに向けたまま冷ややかに言った。
「ヘラルド?」
その冷たさに反応したように俯けていた顔を上げたシドの瞳には、いつも見ている鋭さが僅かながら戻ってきているように見えた。
「なんでしょう、シドさま?」
「俺は、彼女にいて欲しい」
ヘラルドの眉がぴくりと動いた。
続いて彼がシドに向けた返事は、失笑だった。
「彼女を送って、またこちらに参ります。それまでお休みください」
今の主導権は完全にヘラルドにあった。
いつもとまったく違う二人の関係。
それはシドが常の状態ではないからだ。
(シドさん、ほんとにどうしちゃったんだろう)
関係ないのに心配になってしまうのは、彼の不安定さの中に垣間見える心の傷のようなものに気付いたからか。
彼も自分と同じように、心の傷から血を流し続けている?
それは思いもかけない、彼の裏の姿だった。
(ただ強い人だと思っていたのに……)
シドが『隠れ家』と言った小屋をヘラルドに追い出されるようにしてあとにし、今はそのヘラルドの後ろをついて歩きながら、ナイルターシャの待つ部屋へと向かっていた。
相変わらず、前を歩く男は何も教えてはくれない。
彼が蘭に掛ける言葉は命令だけだ。
(シドさんに対してもそうなんだろうか)
一番近しい人が労わりの言葉すら掛けてくれないのだとすれば、シド・フォーンという人はとてもかわいそうな人だと思う。
蘭は小屋を出る時、ヘラルドに気付かれないようにそっと後ろを振り返った。
その時。
明るい朝の光が差し込む窓辺に立った、今にも消え入りそうな儚げな様子のシドを見てしまった。


