久遠の絆

「本当かどうかも分からないのに……」


カイルが婚約するって聞いただけで、あんなに動揺するなんて。


自分が可笑しくて、蘭は自嘲気味な笑みを浮かべた。


(でも、本当だったら?)


ふいにそんな思いが過ぎり、蘭の気持ちはまた重くなる。


(でも、カイルが婚約したからと言って、わたしには関係ないじゃない)


彼が誰を好きになろうと関係ない。


(本当に?)


蘭は自分の心を見つめた。


彼は彼女にとってかけがえのない存在ではある。


けれど。


その気持ちは恋とか、そういった類のものではないと思っていた。


頼りがいのある兄を慕うような、そんな気持ちであると彼女自身は思っているのだ。


(だったら、婚約を喜んであげるべきなのに……)


何故そうできないのか。


(ああ、もう分かんない)


身悶えるように頭を抱えた時だった。


植え込みがカサリと鳴った。


はっと顔を上げ、何かを悟った彼女は植え込みとは逆の方に体を向けた。


かの人と取り交わした約束。



『決して姿を見ないこと』



その人はこの国において唯一と言っていいほどの癒しであるだけに、蘭はこの約束を違
えることなく、未だに彼の姿を見てはいなかった。


低く響く声だけは知っている。


耳に心地良いバリトン。


紡ぐヴァイオリンの音のように、音楽的な響きを持つ声だった。


その声が、今夜も香水の良い香りと共に蘭の五感に届けられる。