久遠の絆

するとひとりのおじさんが視線を蘭へと向けた。


いきなり目が合い、蘭は焦ってパンを喉に詰まらせてしまった。


苦しむ蘭にはかまわず、おじさんは、

「ランさまは帝国におられる時に、皇女殿下と元帥との婚約の話しをお聞きになったこ

とはありませんか?」


「……は?」


「ご存知ありませんか?」


「は、初耳ですっ」


何とかパンを飲み込んだものの、彼女の声は上ずっていた。


そもそも皇女殿下って誰なのか?


そんな人がいたことすら蘭は知らないのだ。


元帥とは、カイルのことだろう。


つまり。


カイルが、誰かと、婚約する?


「え~~~っ?!」


蘭の突然の悲鳴に目を白黒させるおじさんたちなど、彼女の目に入らなくなっている。


(カイルが婚約?)


「ランさま、どうなさったのです?」


側に控えていたリリカがすかさず側によって来て、蘭を落ち着かせるように肩を抱いた。


「何かありましたか?」


事務的ではあるけれど、普段よりは蘭を案ずる響きがあった。


しかし蘭には答えるだけの余裕がなかった。


そしてリリカの腕を振り払うと、制止の声を無視して足早に広間を出て行ってしまった。



そのまま廊下を走り、我に帰ったときには、あの東屋まで来ていた。


ぼんやりと月明かりに照らされた庭の植え込みからは、時折虫の声が聞こえてくる。


それ以外に音はなく、その静けさに身を浸しているうちに、次第に蘭は落ち着きを取り戻していった。