毎晩という訳にはさすがにいかなかったが、行けそうな時にはリリカの隙を見て部屋を抜け出していた。
そうすると、あの人がしばらくしてやって来る。
彼は本当に毎晩、あそこでヴァイオリンの練習をしているようだった。
まだ顔を見せてはもらえない。
いつも向こうを向いているように言われるのだ。
でも聞かせてもらえるなら、そんなことはどうでも良かった。
心が癒される。
それだけで十分だった。
(ああ、早く帰りたい)
気もそぞろで、時計ばかりが気になっていた。
「何か気に掛かることが?」
目聡い人がいたのか、隣国の王だという人がそう尋ねた。
「え、いえ、別に……」
焦って笑顔を無理矢理作った。
「別にと仰る割には、先程から食も進んでおられぬようだし、上の空でいらっしゃいますな」
(放っといてよ)と言いたいのをぐっと我慢して、蘭は
「いえ、本当に大丈夫なんですよ。あなたに言うほどのことではありませんから」
思い切りあんたには関係ないという空気を醸し出してやった。
シド・フォーンに目をやれば、ゆったりと椅子に腰掛けて、グラスを片手に余裕ありげに会場を見渡している。
(この状況何とかして欲しい)
彼の意図がまったく読めない。
イライラを募らせながら、目の前にあったパンにかぶりついた時、向かいの席に座っているおじさんの会話が聞こえてきた。
「帝国では皇帝が退位をほのめかしているとか」
「ほう、いよいよ我慢も限界ということですか……」
「しかし皇太子がいないのに、皇位をどうするつもりなんでしょうか」
そうすると、あの人がしばらくしてやって来る。
彼は本当に毎晩、あそこでヴァイオリンの練習をしているようだった。
まだ顔を見せてはもらえない。
いつも向こうを向いているように言われるのだ。
でも聞かせてもらえるなら、そんなことはどうでも良かった。
心が癒される。
それだけで十分だった。
(ああ、早く帰りたい)
気もそぞろで、時計ばかりが気になっていた。
「何か気に掛かることが?」
目聡い人がいたのか、隣国の王だという人がそう尋ねた。
「え、いえ、別に……」
焦って笑顔を無理矢理作った。
「別にと仰る割には、先程から食も進んでおられぬようだし、上の空でいらっしゃいますな」
(放っといてよ)と言いたいのをぐっと我慢して、蘭は
「いえ、本当に大丈夫なんですよ。あなたに言うほどのことではありませんから」
思い切りあんたには関係ないという空気を醸し出してやった。
シド・フォーンに目をやれば、ゆったりと椅子に腰掛けて、グラスを片手に余裕ありげに会場を見渡している。
(この状況何とかして欲しい)
彼の意図がまったく読めない。
イライラを募らせながら、目の前にあったパンにかぶりついた時、向かいの席に座っているおじさんの会話が聞こえてきた。
「帝国では皇帝が退位をほのめかしているとか」
「ほう、いよいよ我慢も限界ということですか……」
「しかし皇太子がいないのに、皇位をどうするつもりなんでしょうか」


