久遠の絆

二人の席はかなり離れてはいた。


彼の顔が燭台に隠れて見えないくらいに。


だから一緒に食事とは言っても、たいして意識しなくてもいいような状況ではある。


それでも蘭は、先程よりもさらに食欲をなくしていた。


このまま「お先に」と言って、立ち去りたいくらいだった。


(なんで、いきなり一緒に食事をなんてことになるのよ~)


シドはまったく意に介した風もなく、ぶどう酒の入ったグラスを優雅な仕草で傾けている。


ほの暗い蝋燭の明かりの中で、彼の纏う雰囲気は一種幻想的であった。


そこだけが、まるで映画のワンシーンのように切り取られているようだった。


グラスを傾ける。


ただそれだけの仕草だけで、彼は他者をひざまずかせる空気を醸し出していた。


近寄り難く、絶対的な独裁者。


極度の緊張から、蘭はこくりと喉を鳴らした。


結局、せっかくのご馳走に手を付けることができずに時間だけが過ぎていった。


(彼はどういうつもりなんだろう)


その思いばかりが、頭の中を巡っている。


逆にシドは、彼女の存在を忘れたかのように食事を進めている。


けっして粗野ではない。


元は帝国の貴族であっただけにマナーはしっかり身に付いているのか、振る舞いは見ていて気持ちの良いものであった。


(人の上に立つ人って、何でも完璧じゃなきゃダメなのかな)


ぼんやりと燭台越しに彼を見ながら、そんなことを思っていると、一息つくようにナプキンで口元を拭った彼が蘭のほうをちらりと見た。


どきんとして、それまで弄んでいたフォークを思わず落としてしまった。



カシャンッ



それは床に落ちて、思った以上に大きな音が響いた。


(しまった)