バタンッ
その時部屋の扉が勢いよく開けられた。
「ランさま、いかがなさいました?」
血相を変えたような声を耳にしながら、蘭は上に乗る男がふっと消えたのを目の当たりにしていた。
「きゃっ、ランさま。その格好、どうなさったんです?」
ふわりと掛け物が掛けられた。
「ランさま、いったい何があったのです?」
言いながら彼女の顔を覗き込んだのは、監視役でもある侍女のリリカだった。
しかし蘭はそれに答えることが出来ない。
男が幽霊のように消えてしまった宙を、呆然と見ていることしか出来なかった。
「落ち着かれましたか?」
新しい服に着替え、いまだ震える体を椅子に預けた蘭に、リリカが湯気の上るカップを差し出した。
温かい飲み物の入ったカップを両手で抱えるように持った蘭は、強張った表情のまま小さく頷いた。
「何があったのか、お聞きしても?」
労わるように見せながら、やはりリリカのそれには探るような気配がある。
変わったことがあれば、すぐに上に報告しなければならないからだろう。
蘭は首を横に振った。
他人にはとても言えない。
言える訳がなかった。


