久遠の絆

朝の家事を終えたあと、蘭は庭のベンチに腰掛け考えていた。


朝食でのシェイルナータの話を思い出してみる。


自分に付きまとう影。


こんな遠くに来たというのに、結局あいつから逃れることはできないのか。


憎い。ただひたすら憎かった。


なぜ普通の親子でいられなかったのだろうか。


どこで歯車は狂ってしまったのか。


(でも……。起きてしまった事をうだうだと考えても仕方ないのかな)


シェイルナータは『前に進め』と言う。


前だけを見て、やってみろと背中を押す。


(父親に、犯された事実は消えやしない。こんなに辛いのに……胸が苦しいのに……傷は、痛むのに……)


前だけを見ることなんて、わたしにできるんだろうか?


(カイル、教えて……)


すべてを知っていて隠し続けた彼のことを本来なら憎いと思うはずなのに、けれど蘭が縋るのは彼だった。


(彼に話を聞いて貰いたい……)


今は強くそう思う。


彼の薄緑色の瞳に見つめられたかった。


(あの宝石みたいに綺麗な瞳に……)


そして彼の柔らかそうな黄金の髪に顔をうずめて。


孤独が一瞬でも癒されたら。


(彼のぬくもりを感じられたら、きっと一歩を踏み出す勇気が持てる……)


この傷だらけの体を叱咤して、居心地の良い空間から飛び出すことができるだろう。


(そうね。要はわたし次第、なんだ)


あいつの影から逃れられるかどうかは。


わたしの心の強さにかかっている。


(強くなりたい。もっと、もっと。あいつを殴り返せるくらい強く。もう二度と、わたしに触れさせてなんてやるもんか)