諸説あるが、一説ではその昔、製菓店がチョコレートを沢山売るために考え出したとされるのが今のバレンタインだという話がある。
「そうかなー。いっぱいチョコレート食べられて幸せだと思うんだけどなー、バレンタイン」
その説を信じるならば、七海はまんまと企業の戦略にはまった一人なのだろう。
でも、今日はそんな野暮な指摘はやめておこう。
私だって、否定的な言葉を吐いてはいるけれど、今回のバレンタインには俗世に染まり切って参加すると決めているし。
「まあ、いいと思うよ。バレンタイン」
「琥珀は当然、二宮君にあげるんでしょ? 本命チョコレート!」
「ほっ!」
言葉にして言われると、どうにも照れる。
「ついでに告白しちゃえば?」
「……うん、そのつもり」
にやけ顔の七海にそう切り返すと、彼女は予想外、といった表情でこちらを見た。
「あれ、やけに素直じゃん」
「もう誤魔化す必要もないし、自分の気持ちに正直になるって決めたからね」
穏やかな笑顔を浮かべながら、私は数か月前の出来事を脳裏に思い出す。
お父さんの命日だったあの日、悠ちゃん相手に自棄を起こして気持ちを伝えてしまったことが、バレてしまったことが、それまでの私たちの関係を変えてしまったことは確かだけれど、それが決定打になったかと言えば違う。
あの日を経ても、私と悠ちゃんは、「幼なじみ」のまま。
それが悠ちゃんに保留宣告をされてから、今までずっと続いているもどかしい現状。