「一個くらいよこせよー、ケチ」


 悠ちゃんは口を尖らせながら、それでも強引にチョコを私から奪おうとはしない。あくまで私の手から受け取ることをよしとしているようだ。


「あーあ。あげようと思ったのに、ケチって言ったからやめた」


「お前、結局難癖つけて全部食うつもりだろ」


「え? なんか言った?」


「お母さんの分は残しておけよ」


「もちろん」


 そう言って、悠ちゃんはそこで私とのじゃれ合いを切り上げた。

 最初からチョコレートは期待していなかった、というよりは、私の思惑に乗ってくれていたようだ。

 少し沈黙を挟んで悠ちゃんが聞いた。


「なあ、あいつ、元気?」


 名前を聞かなくても、悠ちゃんが誰のことを言っているのか分かる。

 私はほんの数時間前まで、彼女と一緒にいたのだから。


「誰のこと言ってるか分からないけど、元気だよ。今日も超可愛かった」


「いやそれ分かってるだろ……でもそうか、変わりないならよかった」


 彼は今もまだ、元彼女と和解することが出来ないまま、気まずさを引きずって今日まできている。


「なんだ、まだ仲直りしてなかったの。私はとっくにしたのに」


 私の場合、正確には和解ではなく、妥協なのだけれど。


「お前もあいつと何かあったのか?」


「いや、なんか私のこと苛めてたらしいんだよね、彼女。前に嫌がらせのメールとかきてた時期あったじゃん。そのことを謝ってもらって、この前仲直りしたの」


「……知ってたのか」


 悠ちゃんの驚いた様子に、私は一つの結論を知る。


「もしかして悠ちゃん、別れる時に希望ちゃんを責めたの?」