「さーて琥珀。眠そうなところに朗報だよ」
「へ?」
七海は何かを企んでいるような笑顔で言った。
突然話を振られ、思わず姿勢を正す。
七海は希望ちゃんの方へ、まるでテレビ番組のゲストを紹介する司会者のように両手を伸ばし言った。
「中間テストがとってもヤバい琥珀ちゃんに二人目の先生がいらっしゃいました!」
「え? せ、先生?」
希望ちゃんは理解が追い付かないようで、首を傾げている。
そりゃそうだ。
彼女は何か私たちに用があって教室を訪れたはずなのに、誘われるがまま席に座り、何の前触れもなく私の先生に就任してしまっているのだから。
七海はそんなことなどお構いなしに、希望ちゃんに向けて潜めて言った。
それはあくまでフリなので、会話の内容は私にもバッチリ聞こえているのだけど。
「七海ね、琥珀に中間テストの範囲を教えてたんだけど、それはもう、琥珀が進学校の生徒とは思えないほどにバカ過ぎて途方に暮れていたところだったの」
希望ちゃんに耳打ちしながら私を横目で一瞥(いちべつ)する七海。
七海自体がそもそも勉強会という名の個人レッスンに飽きてきたのだろう。
私はそんな彼女に若干の申し訳なさを感じながら、お詫びとしてもう少しだけおふざけに付き合うことにした。