黙って俺のモノになれ【下】


歩結が特別な感情を抱いていると気づいた時も、俺は何も思わなかった。


歩結には言わなかったけどな。


正直言うと、歩結の気持ちはばればれだった。


気がつくと歩結の視線の先にはいつだって心音がいたし、やたらと心音の話が多かったし。


鈍感だ、と言われる俺でも気づくほど歩結はあからさまだった。


優空たちが気づかないのが謎だったくらいに。


心音が入学した当初から、今までの女のタイプとは違うなと思ったのは確かだったし、戸惑ったのも確かだった。


…けど今や



「可愛い…うさぎ。先輩もそう思いませんか?」



「あぁ、そうだな」



こいつには俺はともかく、皆が惚れてる。


そして俺にとっては…



「先輩もこっち来て一緒に触りませんか?」



──────初恋。


心音に出会って俺は“恋”と言う感情を初めて知ったんだ。



「先輩?」



心音が笑うだけで胸がきゅんとしたり、


心音が泣いてるだけで俺までどこか気持ちが落ち込んだり、


心音が喜んでるだけで俺まで笑顔になったり、


心音が誰かと仲良く話してるだけで胸が張り裂けそうなくらい苦しくなったり。


心音のおかげで…俺はたくさんの感情を知ったんだ。


そしてそれと同時に、恋は甘いだけじゃないんだと知った。



「……んぱい!」



「…悪い」



「どうかしましたか…?お昼ご飯食べてから様子がおかしいですけど…」



「いや、少し前のことを思い出していただけだ」



心音は今、誰のことを考えているのだろうか。


心音の頭には、誰が浮かんでいるのだろうか。


それが俺であればいいのに…。