「まだ、提出していなかったんだ。黙っていてごめん」
「誠二朗さん……?」
「結美さんの気持ちを疑っていたわけじゃないよ。それでもどこかで君は、旦那さんの姿を探してた。未練があったんだよ、きっと。だから出せなかった」
あたしと裕くんは黙って見ていることしか出来なかった。
「だからと言って君を責めるわけではないし、問いただすつもりもなかった。お父さんと会った、と言っていたね。君たちの様子を見ると、旦那さんとの間に何か“誤解”があったんじゃないのか?」
……………誤解。
誠二朗さんが言うそれは、お父さんの真実を言っているんだと思った。
「俺は旦那さんと話した訳では無いし、本当の事は分からないよ。だけど、俺は結美さんが…、心音ちゃんや裕汰くんが幸せだと思える人生を選んでほしい」
誠二朗さんが何を言いたいのか、なんてそんなのすぐに分かった。
「だけど……それじゃあ誠二朗さんは……」
「俺の事は気にしなくていい。それに…言おうかずっと迷っていたんだが、転勤が決まったんだ。1ヶ月後にはここを出ていかなくちゃならない。あとは……君たちが決めることだ。俺はまだ仕事が残ってる。そっちに戻るよ」
誠二朗さんはそのまま仕事に戻っていった。
残されたあたしたちは、ただただ放心するしかなかった。