小さい頃、あたしや裕くん、お母さんをおいて出ていったお父さん。


ずっと会うことなんてなかったのに…どうして急に……。


戸惑いを隠せなかったあたしはあの日、逃げることしか出来なくて。


だからあの後、お父さんがどうしたのかは知らない。


あれからは会うこともなくて。


それでいいはずなのにどこかモヤモヤして。


もう一度会えばこのモヤモヤはなくなるんだろうか。


あの時ちゃんと話していれば何か変わっていたのだろうか。


何度もそう考えたけど、そこまでの勇気はまだあたしにはなくて。


答えは出ないまま。



「心音?どーかした?」



………いけない。


せっかくの楽しいデートを最後の最後で台無しにしたくない。



「いえ…!何でもありません。本当に綺麗な眺めですね…」



必死に頭を切り替えて、あたしは改めて目の前の景色を見た。


いろんな場所で灯る様々な光。


それらが作り出す夜景はここでしか見られない特別な景色。


その事がすごく感動的で、あたしは再びその眺めに釘付けになった。



「……………の方が……」



「……え?」



「だから…そうやって夜景を見つめてるお前の横顔の方がよっぽど綺麗だって」



「え…………っ」



まさか優空くんの口からそんな言葉が出てくるなんて思わなくて、驚いたあたしは辺りを見回すと……


どこのカップルも甘い雰囲気で余計に戸惑ってしまった。



「…ごめん。今日言うつもりはなかったんだけど……」



そんなあたしに追い打ちをかけるように言葉を発する優空くん。