車に乗って数分。
沈黙の中、口を開いたのはやっぱり誠二朗さんだった。
「…結美さんは元気にしてる?」
「……はい、元気です」
「そうか。旦那さんにも無事会えたみたいだね」
本当は1番触れたくない話題だけど…
誠二朗さん自らがその話を振ってくるから避けることも出来ない。
「あの、転勤の話はどうしたんですか…?」
それなら思い切って聞いてしまおうと思い、あたしはずっと気になっていたことを口にした。
「…会ってしまったら仕方がないな。転勤の話は嘘だよ」
「どうしてそんな嘘、ついたんですか」
理解ができない、とでも言うような裕くんの言葉に誠二朗さんは切なく微笑んだ。
どうしてそんな嘘をつく必要があったのか。
それはきっと─────────
「どうして…か。分かりやすくいうならその方が離れやすいと思ったからかな」
誠二朗さんの最後の優しさ。
「離れやすい?」
「決断をしやすいって事だよ、裕くん」
誠二朗さんは話をする前からきっと分かってたんだ。
お母さんが自分よりお父さんを選ぶこと。
だけど自分に対して申し訳なさが残ることも分かってたから、
お母さんがなるべく早く決断できるように、
少しでも自分への罪悪感が和らぐように、
お母さんが前を向いて進めるように、
全てお母さんのためを想ってついた誠二朗さんの優しい優しい嘘。



