黙って俺のモノになれ【下】







車に乗って数分。


沈黙の中、口を開いたのはやっぱり誠二朗さんだった。



「…結美さんは元気にしてる?」



「……はい、元気です」



「そうか。旦那さんにも無事会えたみたいだね」



本当は1番触れたくない話題だけど…


誠二朗さん自らがその話を振ってくるから避けることも出来ない。



「あの、転勤の話はどうしたんですか…?」



それなら思い切って聞いてしまおうと思い、あたしはずっと気になっていたことを口にした。



「…会ってしまったら仕方がないな。転勤の話は嘘だよ」



「どうしてそんな嘘、ついたんですか」



理解ができない、とでも言うような裕くんの言葉に誠二朗さんは切なく微笑んだ。


どうしてそんな嘘をつく必要があったのか。


それはきっと─────────





「どうして…か。分かりやすくいうならその方が離れやすいと思ったからかな」






誠二朗さんの最後の優しさ。








「離れやすい?」



「決断をしやすいって事だよ、裕くん」



誠二朗さんは話をする前からきっと分かってたんだ。


お母さんが自分よりお父さんを選ぶこと。


だけど自分に対して申し訳なさが残ることも分かってたから、


お母さんがなるべく早く決断できるように、


少しでも自分への罪悪感が和らぐように、


お母さんが前を向いて進めるように、


全てお母さんのためを想ってついた誠二朗さんの優しい優しい嘘。