黙って俺のモノになれ【下】



「手、離すんじゃねぇぞ」



「うん…!」














奏夢くんとは文化祭の日、少し言いあったこともあった。


そんな話をしたわけでもないし、聞いた訳でもないけどきっと彼にも彼なりの事情があって…。


奏夢くんなりに思ってきたことがあったんだと思う。


人と人との関わりは思ってるよりずっと難しくて、思いを伝えるのがこんなにも大事なんだってことをあたしは桜河に来て嫌という程学んだ。


あの時奏夢くんに言った言葉は、実はあたし自身に言い聞かせてた所もあったんだよね…。


人を見た目や地位で判断しない。


そんな風にはなりたくない。


だって人にはそれぞれ色んな事情があって、決して自分の思い通りに生きているとは限らないから。


それを何も知らずに否定することだけはやめようって思えるようになったから…。


あの時は咄嗟の思いつきで喋っちゃったところがあって言いすぎたかなって不安にもなったけど…。


ちゃんと伝わったみたいで本当によかった…。



「あと少しだ。後ろ振り向くんじゃねぇぞ、前だけ向いてろ!」



「うん、ありがとう…っ」



いつだって真っ直ぐでストレートな言葉しか話さない奏夢くん。


最初はその真っ直ぐさに戸惑うこともあったけどストレートだからこそ響く言葉だってある。


思ったことをすぐ言葉にするから人とぶつかることも沢山あるけど……


あたしはその言葉の中に優しさがあることを今ならちゃんと分かってる。


わがままだって誤解されることも多いけど奏夢くんは奏夢くんなりにお家の為に気を配って頑張ってることをあたしたちは知ってるから。


だからせめて……………