お店から一人、男が出てくる。グレーのコートを羽織った男は、一度立ち止まり、空を見上げながら雪の具合を確認していた。そして私が傍に立っているのに気がつくと、懐かしそうに柔らかい笑顔を見せた。


「久しぶりだな、芹香(せりか)。元気だったか?」


 その笑顔にハッとした。すっかり変わってしまったように見えたが、その人は私が探していた――




 ――(りょう)……




 雪がかなり激しく吹雪いてきたので、涼は場所を変えようと私をお茶に誘ってくれた。花屋の隣はわりと大きなホテル。その中にあるカフェの窓際の席で、お互い向かい合って座った。

 涼は熱いコーヒーを頼み、私は冷たいミルクティー。それを聞いて彼は、猫舌は変わってないな、と笑った。


「まさか、おまえに逢えるとは思ってなかったよ、芹香」

「私も、涼に逢うとは……偶然で驚いた」


 それは嘘。


 私は涼に逢いたかった。でも涼は私のそんな気持ちに気がつかない。彼は長期休暇で実家のあるこの街へ帰省した事や、あの花店には会社のお得意様への花の配達を注文していた事を話してくれた。

 私はそれをぼんやりと聞き流し、じっと彼を見つめていた。