「ほら、行くわよ」


お母さんは私を残してひとり先に歩いていった。


昨日救急車で運ばれて、今日退院するということが府に落ちなかったけれど、私はもう何も言わずにお母さんの背中を追った。


病院を出ると、もう外は薄暗くなっていた。


最近は、雨が降らなくなった。


梅雨明けはまだまだ先なのに、今年は何故だか雨が少ない。


まぁ、それはそれで、私は嬉しいんだけど。


少し湿気があるものの、過ごしやすい暑さで嫌悪感がない。


「莉子! どこ行くの?」


病院を出てタクシー乗り場に向かうと、少し遠くからお母さんの声がして振り返った。


お母さんはタクシー乗り場ではなく、全く反対方向に歩いていた。


「え? なんで? タクシーは?」


病院から家までは、徒歩30分くらいだ。


私ひとりなら全然歩ける距離だけど、今日はお母さんも一緒。


疲れてるだろと思って、タクシー乗り場に向かったのに。