「……俺の話を聞いていたか、玖下」
横を見れば、不機嫌そうな依良がいた。
「ちゃんと聞いていたよ。彼の所作だろ?」
「ああ。あれはお前と≪同業≫か?」
「いや、違うね。僕らと≪同業≫なら迷わず、急所を突くよ」
そう、僕らと≪同業≫なら一撃必殺で急所を突く。
でも、彼はそれを行わなかった。
≪同業≫な訳がない。
それに、彼があの男に囁いていた言葉……。
『蓬條依良は殺らせない……。奴を殺るのは私だ』
人より耳が良い僕はそう確かに聞こえた。
彼は依良を殺そうとしている──。
その事実を知ったら、依良は彼に殺されることを受け入れる。
なら、僕は迷わず篠田さんを殺すよ。
依良は殺させない。
依良は僕の命の恩人だからね──。
≪玖下side end≫