「それが僕が聞いても教えてくれないんだ。でも、律生ももう高三だし、子供じゃないからそっとしておくよ」
「……そう」
律生程ではないが、摂紀とも仲良くしている。
だから、彼も俺と二人の時だけは敬語を話すことはない。
俺は律生の兄である摂紀がそう決めたなら……と思い、窓の外へ視線を向けた。
外は梅雨が近いのか、曇っている。
「依良」
ふと、摂紀が声をかけてきた。
何?というように視線だけを摂紀に向けると、もちろん運転中の彼が俺を見ることはない。
「……何でもない」
「?」
何なんだ、一体?
不思議に思いながらもまた窓の外へ視線を戻した。
「……知らない方が良いことも世の中にはたくさんあるよね」
そんな呟きが前から聞こえたが、聞こえない振りをする。
でも、その呟きの意味を俺はすぐに知ることになる。



