いや、お父さん。
 この人に関しては余計な心配ですよ、と遥は思っていた。

 あのあと、エアコンの効いた屋敷の廊下に出た途端、正気に返ったように航はぎこちなくなり、そのまま、部屋を見せてくれ、少しドライブして、というか。

 なにを迷っていたのか、沈黙したまま、延々とドライブしたあとで、家まで送ってくれたのだ。

 そういえば、この人、今日呑んでないよね、と家に着いてから気づいたので、今日はたっぷり呑ませてあげるつもりだった。

「課長、今日はゆっくり呑んでくださいね。
 私が送っていきますから」
と言うと、

「電車でか」
と訊いてくる。

「嫌だなあ。
 私が運転してですよ」

「……免許持ってたのか」
と信じられない言葉を聞いたかのように言ってくる。

 いや、いまどき、大抵の人は持ってると思いますが……、と思いながら、
「はい」
とグラスが空いたときのために、酒瓶を抱えたが、航は何故かグラスを置いてしまう。

「あっ、なんですか、その信用のなさっ」

「あるわけないだろう……」