好きになれとは言ってない

 昔、家族旅行で行った旅館に天体ドームがあって、入ったことがあるのだが。

 今は二人きりなので、日常のざわめきからより遠く、宇宙に近い雰囲気がある気がした。

「わかる気がします。
 エアコン効いてない方が雰囲気が出るっていうの」

 ひんやりとしたこの空気が、なんとなく宇宙に居る感じがする。

 ……いや、行ったことはないのだが。

 冷暖房完備だと、部屋でスクリーンに映し出された星を見ている気分になるかもしれない。

「見てみろ」
と航は操作用にパソコンの画面映し出された月の方を見ながら言ってきた。

「は、はい」
と望遠鏡の前の短い階段を上がろうと白い手すりに手をかけようとした遥は、そこにシールが貼ってあるのに気がついた。

 昔の戦隊物のシールのようだった。

 足を止め、それを見ている遥に気づいたように航が近づき、言ってくる。

「俺と真尋が貼ったんだ。
 いつもピカピカにしてあるドームに貼ったから、母親は真っ青になっていたが。

 何故だか爺さんも婆さんも怒らなくて、今でも貼ってあるんだよな」