好きになれとは言ってない

「しかも、学者ってやつは、どうでもいいところにこだわりがあって。
 普段はかなり寛容、というか、周りのことに興味があまりないのか、怒らないんだが。

 そこでか? と思うようなところで怒ってくるぞ」
と子どもの頃を思い出したように眉をひそめ、言ってくる。

 笑ってしまった。

「課長は、お祖父さま似なんですかね?」
と言うと、なにっ? という顔をしていたが。

 白いドームの中もやっぱり白かった。

 巨大な望遠鏡が中央に座っている。

 航が操作盤の蓋を開け、電源を入れて、いろいろと動かしていた。

 やがて、ドームのスリットが開く。

 うわー、こんな大きなものがボタンひとつで動くとか、と思って見上げてしまう。

 この家の天体ドームは個人の持ち物としては、かなり大きかった。

「月から見るか?」
と航が言う。

「は、はい」
となんとなく緊張して言うと、ドームが動いた。