好きになれとは言ってない

 



 遥は清乃たちに挨拶したあとで、長い廊下を歩き、屋敷の東棟の南端にある天体ドームに行った。

 入り口を開ける前に、
「ほら」
と持ってきてくれていたコートを渡される。

「シーイングが悪化しないように、外気と変わらない気温になってるから」

 すみません。
 なにを言っているのか、よくわからないのですが、と思いながらも、コートを羽織った。

「じいさんは、寒い方が雰囲気が出るとかよくわからないことを言ってるけどな」

 あの二人で、ドームで星とか見るのだろうか。

 厳しい顔で星を眺める清乃を、にこにこと見ている航の祖父の姿を思い浮かべ、なんだか微笑ましいな、と思ってしまった。

 想像していることがわかったのか、こちらを横目に見た航が、
「だが、ああ見えて、本気で怒ると怖いのは、じいさんの方だぞ」
と言ってきた。

 まあ、そんなものかもしれない。