好きになれとは言ってない





 航と部屋に入ったとき、遥は緊張するな、と思っていた。

 よく考えたら、電車と夜道以外で二人きりになったことはあまりない。

 ああっ。
 ベッドの上に服放り出してるしっ。

 棚の上の埃取ってないしっ。

 棚の上まで、わざわざ航が見るわけもないのだが、遥は動揺していた。

 そんな遥に航は、父と呑んで楽しかったと言ってくれた。

 気を使って言ってくれているのだとしても、嬉しい。

 ふつつかな父ですが。
 よろしくお願いいたします、と言いそうになる。

 そして、正月の話題のあと、沈黙が訪れた。

 き、気まずい。

 気まずいよ、黙っているのは、と思ったのだが、なにか話さなければと思うと、逆になにも浮かばない。

 こ、この間のイカの足、美味しかったですか?

 ……いや、二人きりのときの会話としては、失敗な気がする。

 真尋さんにも、
『え? あのときの荷物って、イカだったの?
 っていうか、それが兄貴への初めての贈り物ってどうよ、女子』
とか言われてしまったし。