好きになれとは言ってない

「……何故、逃げる」
と遥の肩をつかんだまま、威圧するように言ってしまう。

 自分で大魔王と呼ばれるはずだな、と思っていた。

「すすす、すみませんっ。
 緊張しちゃってっ」
と壁に押し付けられたまま言ってくる遥に、更に、脅しつけるように訊いてしまう。

「嫌なのか?」

 いや、こっちも緊張しているから、そういう口調になってしまうだけなのだが。

 大葉たちが居たら、いや、付き合ってるんだろ? 普通にしろよ、と言われそうだが。

 遥は、こちらを見つめたまま、

「そ……」
と言いかけ、言葉を止めた。

『そ……』
 なんだ?

『そうです』?

『そんなわけないです』?

 どっちだっ!? と思っている間に、コンコン、とノックの音がした。

 答える間もなく、ドアが開く。

「航さん、送っていくわよ。
 代行が来たから……

 あら、お邪魔した?」
と覗いた遥の姉が、にんまり笑い、

「待ってましょうか」
と言ってくる。

 け、結構です、と言葉を押し出し、遥から手を離した。