好きになれとは言ってない






「あー、心臓に悪かったですっ」

 部屋に入った遥はそう言ってきた。

「お母さん、姑みたいに、隅の隅までつついて文句言ってくるから」

 お前の実際の姑になるかもしれない人間は、かなり大雑把だがな、と思いながら、遥の部屋を見渡す。

 別にそんなに散らかってはいなかった。

 可愛らしいベッドの上に朝、着ていくのを迷ったらしい服が、ハンガーごと、二、三着放ってあっただけだった。

 実はちょっと部屋を見てみたいと、というか、入ってみたいと思っていた。

 遥の匂いがするな、と思い、少し笑うと、
「あの~」
と遥が遠慮がちに呼びかけてきた。

「今日はいろいろすみませんでした」

 そう謝ってくるので、
「いや、結構楽しかった」
と言うと、意外そうだった。

 だが、本当だ。
 緊張もするが、遥の父の人となりは嫌いじゃないし。

 なにより、父親と差し向かいで酒を呑むなんて、本当に遥と結婚できそうでちょっと嬉しかった。

「ま、なんだかもう正月も終わったような感じはしてるけどな」
と言うと、は? と言われた。