いや、脅したわけではないのだろうが、いつものように眼光鋭かったからだ。

「そ、そうではなくてですねっ」
と言いながら、仕事でケーキを買いに行くのに、航の運転する車に乗せてもらったときのことを思い出していた。

 緊張のあまり、身動き取れない感じだった。

「のっ、乗りたくないですっ」
と心から、ほとばしるように言葉が勝手に出てしまう。

「乗りたくない?」
とあの鋭い目で見られた。

「いいいいいえいえっ。
 そうではなくてですねっ。

 きっ、緊張するのでっ」
と慌てて一息に言ったあとで、

「課長は私と居ても、緊張などなさならないと思いますがっ。
 私は今でも、とても緊張していますっ」
と訴えると、航は、

「……俺もしてるぞ」
と言ってきた。

 そ、そんな課長が、私ごときに緊張ってっ。
 ……き、緊張っ、とかっ。

 そんな畏れ多いっ。

 いろいろ考えすぎて、脳が酸欠気味になり、クラクラしてくる。

 しかし、こんな風に二人でずっと緊張し続けていて、ちゃんと付き合うとか結婚とか出来るのだろうか、と少々不安になってくる。