好きになれとは言ってない

 



 真尋の店を出た遥は、航に家まで送られていた。

 一人で帰れます、と言ったのだが、駅を離れると、街灯も少ない住宅街なので、心配してくれているようだった。

 横を歩く航が、ふいに、
「車……」
と呟いた。

「はい?」
と振り向くと、航はこちらを見ずに、真っ直ぐ夜道を見ながら、言ってきた。

「車を家から持ってこようかと思ってるんだが、まだ、駐車場が借りられてないんだ」

「は? はい?」
となんだかわからないまま遥が返事をすると、

「寒いだろうが。
 駅から歩くの」

 そう素っ気なく言ってくる。

 ええええっ。
 まさか、私なんぞのために車をっ。

「だ、大丈夫ですっ。
 そんなっ、大丈夫ですからっ」
と手を振りながら言うと、振り向いた航に、

「それは、俺の車には乗りたくないという意味か」
と脅される。