好きになれとは言ってない

 



 皿を洗い終わると、航はトイレに行ってしまった。

 どうやら、我慢して洗ってくれていたようだ、と思いながら、真尋は振り返る。

 すると、遥が自分を手招きし始めた。

 なにかこう、招き猫の一種のようで可愛い。

 顔を近づけても、遥は他の女の子のように、赤くなって逃げたりせずに、
「あの……課長の欲しいものってなんですかね?」
と大真面目な顔で訊いてきた。

 うーむ。
 全然、俺に気はないようだ。

 というか、この間の間抜けなプロポーズもなかったことにされているようだ。

 ありがたいような、ちょっと待て、と言いたいような。

 恐らく、本気にしていないのだろうが、自分としては、女の子にあんなこと言ったのは初めだったのだが。

 しかも、自分の言動とも思えないほど、格好悪かった。

 だが、自分にそんな一面があると知ったのは、自分でも意外だったというか、ちょっと嬉しかったというか。