好きになれとは言ってない

 そんなことを考えている間に、手早い大魔王様は皿洗いを済ませ、トイレに行ってしまわれた。

 その隙に、遥は真尋を手招きする。

 え、なに? と真尋が顔を近づけてきた。

「あの……課長の欲しいものってなんですかね?」

「遥ちゃん」

「え? なんですか?」

「そうじゃなくて、兄貴の一番欲しいものは、遥ちゃんでしょ」

 そう即答してくる真尋に、なに言ってるんですかーっ、と叫んで、逃げようとした遥はスツールから落ちそうになった。

 慌ててカウンターをつかんで、踏みとどまる。

 支えようとしかけた真尋は苦笑いし、
「落ち着いて」
と言ってきた。

「す、すみません。
 店の雰囲気だいなしにするところでした」
と言うと、真尋は笑顔で、

「いつもしてるじゃん」
と言ってくる。

 聞こえたらしい、カウンターの女性が笑っていた。

「っていうか、なんでみんな俺にそんなこと訊くんだよ。
 独り身のこの俺に」