好きになれとは言ってない

 でも、いつまでも社外でも、課長っていうのも堅苦しい気がするしなあ。

 いや、じゃあ、大魔王様の方が堅苦しくないのかと問われたら違うとは思うが……。

 なんて呼ぼうかな。

 『航さん』は、やっぱり恥ずかしいし。

 うーん。
 結婚とかしたら、なんて呼ぶのかな。

 うちの主人が、とかみんな言ってるよね。

 主人……なんか照れるな。

 じゃ、ちょっと丁寧に、ご主人様。

 ……それじゃ、召使いか。

 妄想が、完全に脱線しながら、カウンター席に座ったとき、真尋が、

「なんにする? 遥ちゃん」
と訊いてきたのだが。

 どうやら食洗機の調子が悪いらしいと気づいた遥は鞄を置いて立ち上がった。

「私も手伝いますよ」

 だが、真尋は素敵な笑顔でニッコリ笑って言う。

「いいよ。
 此処の皿、結構高いんだ」

 ……すみません。
 もうちょっと信用してください、と言いたかったのだが、言えなかった。

 言えるだけの実績がないからだ。

 言えない実績なら、山とあるのだが。