好きになれとは言ってない

 



「なにそれーっ。
 もうそれで言ったも同じじゃん。

 なんでそこで、好きだって言わないのー」

 なんで実家に送ってっちゃうのよーっ、と給湯室で亜紀は絶叫する。

 まるで、自分のことのように、
「あーっ、イライラするっ!」
と叫び出す亜紀に、

 大きい大きい。
 声、大きいです、亜紀さんっ、と遥は慌てる。

 そして、聞いています、大魔王様がっ。

 給湯室の外を通りかかった航が足を止め、無言で遥たちを見つめていた。

 怖いよ。

 去っていく大魔王様の後ろ姿を見ながら、青ざめた亜紀が言ってくる。

「あんた……あの人と結婚したら、一生あの目にさらされるのよ? 大丈夫?」

「が、頑張ります……」

 でもまあ、と亜紀は笑う。

「あんたたちみたいなのには、そういうスローな感じがいいのかもね。

 早く出来たカップルは早く別れるかもしれないし。

 ま、還暦までには結婚しなさいよ」

 ええっ?

 投げ捨てられたっ? と遥はさっさと給湯室を出て行ってしまう亜紀を見送った。