好きになれとは言ってない

 




 特に話すこともなく、遥たちは二人で駅に向かい、電車に乗った。

 並んで座って黙っているうちに、航の駅に着いた。

 だが、航は降りない。

「……課長、降りないんですか」
と訊いたが、

「降りない」
と言う。

「そんなこと言ってたら、終点まで行っちゃいますよ」

「行きたいんだ」

「……じゃあ、私も行きます」

 航は前を見たまま、
「俺はお前の居ない国に行きたい」
と言ってくる。

「……この電車、他の国には行きませんよ」

 そう言った自分の声が思いもかけず、やさしくて、びっくりした。

 なんでだろう。

 私は嬉しいのだろうかな?

 さっき、真尋さんにキスされてショックだったけど。

 でも、こうして、課長がショックを受けてくれたことが嬉しいような気がする。

 何故、自分の居ない国に行きたいと航が言い出したのか、わかる気がした。

 自分もまた、思いあまって、そう思うときがあるからだ。

 いっそ、課長の居ない世界に行ってしまいたいと――。