好きになれとは言ってない

 



「いらっしゃ……」

 い、と言い終わる前に、真尋は遥に気がつき、言葉を止めた。

「真尋さん、来ましたー」
という朝子たちには、真尋は機嫌よく話しかけている。

 まあ、特に触れなきゃ大丈夫かな、と思いながら、いつものようにカウンターの端に座ると、ひょい前に来た真尋に、

「なかったことにしようとしてる?」
と言われた。

 朝子たちが、雑誌が並べてあるところに行き、表紙を見ながら、ああだこうだと言っている隙をついてのことだった。

 思わず固まった遥に真尋は笑い、

「いいよ。
 俺が勝手に言いたくて言っただけだから」

 困らせただけだったね、ごめん、と言って、そのまま、その話題には触れてこなかった。

 だが、みんながもう帰ろうかという頃、わざと大きな声で真尋が言い出した。

「もうすぐ兄貴来るみたいだから、遥ちゃん、待ってなよ」

「あ、そうなんだ?
 じゃあ、遥、お先ー」
とみんな帰っていってしまう。