好きになれとは言ってない

 



 遥のことは死ぬほど気になっていたが、ドラマじゃあるまいし、仕事は次々押し寄せてくるのに、それを放って、遥の許にはいけない。

 航はイラつきながらも、自分のデスクに居た。

 遥は壁一枚隔てた場所に居るのに、今はその壁をとてつもなく厚く感じる。

 時折振り返る壁が、睨みつける目力で溶ければいいのに、とらしくもなく阿呆なことを考えていた。

 だが、こうして、頭のほとんどを遥に持って行かれたまま、仕事していても効率が悪いような、と思ったとき、航の許に、口許を書類で隠すようにして、例の部下がやってきた。

 ご注進に来る忍びの者かなにかのようだ。

「どうした、宝迫(ほうさこ)」

 なにやってんだ、こいつは、と思いながら言うと、
「課長、コンパのメンバーに入れていただいてありがとうございます」
と礼を言ってくるので、パソコンの画面を見たまま、

「その代わり、ひとりは必ず、嫁にもらえよ」
と言ってやると、ええっ? 強制お持ち帰りですか? と苦笑いしていた。